TOPTalk : 対談

「健康をめざすアート公募展」第1回優秀賞受賞者
 カモタオユコさん誕生秘話 後編

◇田中裕一(たなかひろかず)さんプロフィール
介護福祉士 臨床美術士
埼玉県出身
江戸川学園おおたかの森専門学校(旧:江戸川大学総合福祉専門学校)卒業
現職:介護老人保健施設 春陽苑 統括主任介護士
*記事中に出てくる「臨床美術」とは
臨床美術は、絵やオブジェなどの作品を楽しみながら作ることによって脳を活性化させ、高齢者の介護予防や認知症の予防・症状改善、働く人のストレス緩和、子どもの感性教育などに効果が期待できる芸術療法(アートセラピー)のひとつです。
(特定非営利活動法人日本臨床美術協会HPより)

 
 

カモタオユコさんの生みの親 田中裕一さんにインタビュー!

*前号からの続き

月刊宮島永太良通信編集部(以後Q):臨床美術を春陽苑で実践し、それに参加した方々やスタッフの反応はいかがでしたか?

田中裕一さん(以後A):臨床美術を行う以前は、僕は説明するだけで塗り絵や工作の手順、そして作品の完成も参加者皆一緒という流れでしたが、臨床美術は手順は一緒だけど、使う色が違うし工夫も必要、加えて僕が制作に参加することで皆がやりやすくなったように感じます。

Q:前は利用者様だけが作品制作していたのですか?

A:以前はこちらが説明をし、材料を提供して「これをしましょう」と指示だけを出していたのですが、今は一緒に考えながら制作を楽しめるので、参加した利用者様の笑顔がグンと増え、その様子を見守っているスタッフも興味を持ち、プログラム実施のフォローをしてくれます。

 

Q:臨床美術によって新たな根っこができ、成長している感じですか?

A:近い感覚です。最初、秋の体験会に参加した時は「臨床美術って簡単なんだ」と思いましたが、お茶の水に通って講座を受けたら、奥が深いことを痛感。だから、実際にやってみると臨床美術の奥深さを知らないと活動の成果を期待できないんじゃないかなと思いました。

Q:臨床美術が田中さん合っていた?

A:はい、僕のやりたいこと、そして性格にマッチしていたと思うし、臨床美術をこれまでの施設での美術的活動と比較すると格段に利用者様の反応は良くなっています。

Q:認知症予防の一助になりますか?

A:期待できると思います。一応、協会には実証データもあるようですが、こればかりは個人差もあり、全員に有効だとは言えません。とにかく臨床美術のプログラムを通して楽しんでいただくことが脳の活性化にはつながると思います。それが、結果的には認知症予防に繋がる可能性があるのかもしれません。

 

Q:利用者様の中で、実際に効果があったと思われる方はいらっしゃいましたか?

A:何名かは普段の活動意欲がちょっと高まっているのかなと感じられます。また、制作した作品を飾ってあるので、それを観て喜んでいる方もいて、少なからず変化は見られます。とにかく臨床美術以前も色々な活動を利用者様に提供してきましたが、今のように「またヤリタイ!」の声を聞くことはなかったし、「次はいつですか?」の声が上がるなど、参加者の活動意欲が高まっているのを肌で感じます。

Q:春陽苑でどんなペースで臨床美術を行なっているのですか?

A:いま僕だけしかプログラムに携われないので、そんなに頻繁にはできません。また、臨床美術に参加する利用者様の状況がそれぞれ違い、調整しながら行うので、目安としては、だいたい週一ぐらいのペースが理想です。

Q:次はカモタオユコさん誕生のお話をお聞かせください。

A:まず、臨床美術士の資格を取った時点で「健康とアートを結ぶ会」の公募展のお話があったので、臨床美術も突き詰めれば健康維持に繋がり公募のテーマとマッチすると考え、思い切って応募しました。作品制作に参加した6名が全員女性だったので、頭文字を組み合わせ、他にはなくて印象深い名前を考え、何パターンかを用意しましたが、カモタはいても、オユコはいないだろうなと考えて「カモタオユコ」と命名しました(笑)。

 

Q:優秀賞を受賞したカモタオユコさんの反応はいかがでしたか?

A:そもそも公募展に出したことを忘れていた方もいましたが、賞状を持ち帰り、皆さんに見せたらとても嬉しそうにして驚いていました。でも、共同制作だから、自分が作ったと自覚している方は少なかったかもしれませんが、6名にとっては良い思い出になったんじゃないでしょうか。

Q:田中さんご自身は受賞をどう受け止めましたか?

A:まず臨床美術が公募展のテーマに合致したのかなと思いました。余談ですが、展覧会が行われた銀座のミーツギャラリーには、順番で9名の利用者様をお連れしました。皆さん、作品を観て楽しんでいました。その様子から制作した作品を春陽苑内だけで飾るのではなく、他のスペースに展示することにも意義があると思い至りました。つまり場所と飾り方で雰囲気がかなり変わる。だからこそ施設内だけではなく、作品を違う場所に飾るという目標を持って制作に励めば参加者のやる気がより増し、臨床美術の次の段階に進めそうな気がしたのです。

Q:最後の質問です。今後の展開についてはどの様にお考えですか?

A:春陽苑の臨床美術は6名から始まり、今では約20名が参加しています。だから曜日を分けながらの活動継続はもちろんですが、今年も開催される「健康をめざすアート公募展」をはじめ、様々な作品展への出品を目標に取り組んでいきたいと思っています。また、利用者様と銀座に行った際、作品展示を見るを楽しみにされていたのはもちろんですが、外出すること自体を喜ばれていたので、今後は近隣のギャラリーを借りて展示会を行い、利用者様の外出機会も増やして行きたいと思っています。

Q:まさに次の段階ですね。今日は貴重なお話をありがとうございました。

終わり 

 
 
 

◇田中裕一さんが運営する「介護士の臨床美術ch」
https://www.youtube.com/channel/UC3qRfYFi8vebY0q_d8GT3uQ

 
 
 
 
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