◇連載 第6回 宮島永太良とアートが気になるインタビュアーの対話
ここからアートステーション 第6回 口の話
Q=アートが気になるインタビュアー/A=宮島永太良
Q:数回前より顔の部位についてお話を進めていますが、今回は口について考えようと思います。
A:幼い頃、口は不思議な所だと思っていました。「食べる」という役目を果たしながら「声を出す」という機能もあります。そうした複数の機能を持っているのは、実は目も耳も鼻もそうだと大人になって知るのですが、口に関しては、子供でもわかる「目立つ」機能が二つもあることになります。しかも食べながらしゃべるのは大変、とか、生活に直接結びついています。
Q:口ほどいろいろな機能を持つ部位も珍しいでしょうね。
A:過去の回で、人間の目からの情報(視覚情報)は7〜8割という話をしましたが、口から発せられた言葉の情報は同等かそれ以上ではないでしょうか。
Q:ちなみに口は五感で言えば、主に味覚と触覚にかかわるところでしょうね。
A:そうですね。味覚というのは主に舌が役割を果たしています。舌以外の口の中で感じるのは、ほとんど触覚ではないかと。食べ物や飲み物を味わう時、「味わう」とは言いながら、触覚の要素も多いと思います。
Q:ビールの広告などで「こののど越し!」とか言いますが、のど越しとは明らかに味ではなく「触覚」の話ですよね。
A:すごく辛いものを食べた時もそうではないでしょうか。確かに「辛い」という味覚もありますが、むしろ「痛い」に近いような触覚的な辛さも実に多いと思います。舌が司る触覚といえば「甘み」「塩み」「辛み」「酸っぱみ」「苦み」の五つと思っていましたが、調べてみると「旨み」というものもあるそうです。これは「出汁を取る」文化のある日本人特有のものだとも聞きます。また、近年では脂っぽさを感じる「油み」というのもあるとも言われます。
Q:そうなるとこれからもいろんな味覚が発見されそうですね。そういえば「口」という字が付く言い回しは昔からありますが、「話す」ことに関する言葉と「食す」ことに関する言葉に大別できますね。
A:「口数が多い」「口下手」などは話すことに関する言い回し、「口に合う、合わない」などは食べることに関してですね。私の友人で「甘い物は別腹」のことを間違えて「甘い物は別口」と言っていた人がいました。
Q:「別口」なんて、口が二つあるみたいで怖いですね。
A:腹だって、牛ではないんですから複数あったら怖いはずです。やはり見える、見ないは大きく影響しますね。
作品名:kido-ai-raku-1 木・粘土・アクリル 15cm × 21cm
Q:腹ほどではないにしろ、口にも役者は揃っていますよね。
A:同じ口の中でも、舌、歯等それぞれ役割が大きく違っていますね。唾液が出るのも重要な機能です。唾液が減ると乾燥して風邪を引きやすくなると言われます。そのためガムを噛むと、唾液が活性化されて良いとも言われますが、そのガムも噛みすぎれば歯に悪いことになる。尤もガムが歯に悪いのは、甘い味がついて虫歯に繋がるからでしょうけれど。
Q:むしろ「噛む」ということは口の筋肉にとってはいいかもしれませんね。
A:人間には「咀嚼」という行為が大事と言われます。咀嚼することで口の筋肉が鍛えられ、呼吸にも良い影響がある。また食物を細かくかみ砕くことで消化にも良い。
Q:だから早食いはだめだと言われますね。
A:私の知り合いで、噛みながら「ありがとう」を五回頭の中で言うと言っていた人がいました。「ありがとう」は五文字なので、五回言えば一口の物を二十五回噛むことになります。なお、咀嚼に関しては「マルタの冒険」のアニメ紙芝居でも「カムカムソシャク」という話の中で解説しているので、ぜひ見て下さい。
https://www.youtube.com/watch?v=44dqW7YwrTg
テーマ曲付きです。https://www.youtube.com/watch?v=0wGun5BjTvg
Q:私も見ましたが、これがなかなかおかしくておもしろいんです!
A:そういえば以前、誤嚥を防ぐ機械を作っているメーカーの人が、このアニメにも興味を持ってくれましたが、逆に私もその機会で検査を受けたことがあります。1分間の間にどれだけ唾液を飲み込めるかを計りましたが、私の場合は特に問題なしでした。
Q:これが飲み込む回数が少ないと、誤嚥が起こりやすいということですね。さらにそれは誤嚥性肺炎の誘発につながるので、高齢化社会の現在では、深刻な問題の一つですね。宮島さんはその辺も何かアートで手助けすることを考えられてますか。
A:今は具体的な話はできませんが、考えてはいます。
Q:唾液を飲み込むのは、先ほどの口の筋肉を動かすのは大事、いう話につながりますが、これは話すことに関しても言えるのではないでしょうか。
A:聞きやすい話をする、という観点では必要でしょう。私は時々、自分が話しているのを録音することがあるのですが、他人の耳になって聞いてみると、聞き取れないことがわかることがあります。先日も、マルタの紙芝居の読み聞かせ練習をしたのですが、このような場合、聞く人は文字を見ていないので、よりわかりやすく発音しなければいけません。
Q:最近はスマホの音声検索などありますが、あれも活舌が悪いと反応してくれませんよね。
A:自動翻訳機もそうですよね。今後の世の中の流れからしても「はっきり話す」ことは避けて通れなくなるかもしれないし、そのためのトレーニングはまた噛むことの充実にもつながるので、なかなか良い傾向ではあるのではないでしょうか。
Q:美術的に見ても、口はいろいろな表情を表しますよね。
A:単純に言えば、口を下半円に描けば笑っている顔になるし、上半円に描けば泣いている、困っている、怒っているという顔になります。さらに口の形を様々に描けば、人間やキャラクターのいろいろな表情を表すことができます。これは目にも同じことが言えます。耳や鼻だけを描いても表情の表現は難しいでしょう。
Q:「目は口ほどにものを言う」とは言いますが、口も目ほどに泣いて笑っていますよね。
つづく